
1998年 収録アルバム:Singles2000
中島みゆきの「瞬きもせず」は映画 学校Ⅲの主題歌になっている。
学校Ⅲは障害者への差別社会への警鐘を鳴らす社会映画だ。
内容として、主人公は二人いる。ひとりは自閉症を持つ16歳の子ども(トミー)。もう一人はトミーの唯一の友達である健全者の子ども(高野周吉)。
トミーは新聞配達のアルバイトをしているが、配達先の人間からは迷惑がられ、もうこないで来れと言われてしまう。
トラブルも度々起こしてしまい、世間からも煙たがられ、自分自身の生きている価値は何なのか。生きている意味は何なのか。それすら分からず生きている。
ただ1人、唯一の理解者の高野周吉はトミーに対し、障害者としてではなくひとりの人間として接している。なぜ普通に接することが出来るのか。
それは、トミー自身は気がついていない自分の価値を、友達である高野周吉はトミーの価値を理解しているからではないでしょうか。
・歌詞解説
・中島みゆきは一生を瞬きひとつと例えている。
自分を基準に置くと、80年ほどのとてつもなく長い人生だが、宇宙規模で考えるとたった一瞬にも満たないのである。
宇宙規模というと、歌詞を拡大解釈しすぎではないのか?と思うかもしれないが、
「永久欠番」という楽曲で”宇宙の掌の中”(宇宙の掌=仏陀という説がある)という言葉が出てくることから、決して拡大解釈ではないことが分かるだろう。
そんな一瞬の世界の中、人は一人では生きられず、常に誰かを求め合って生きている。
・”ああ 人は獣 牙も毒も棘もなく ただ痛むための涙だけをもって生まれた 裸すぎる獣たちだ”
とあるが、これは 人間は本来人を傷つけるために生まれたわけではないのに、人を傷つけながら生きているんじゃないか? とパラドックスを展開していると考えられる。
・”君を誉める歌はなくても 僕は誉める 君の知らぬ君についていくつでも”のフレーズでは、 君は自身の誉められる価値に気がついていないだけで、僕は君の価値を知っているよ。だからもっと自信を持って欲しいという励ましの曲だと解釈できる。
・この歌は様々な言葉に言い換えられているが、本質を捉えると
人は一人で生きられない → なぜ人は人を傷つけてしまうのか → 人にはそれぞれ自分が気がついていないだけで魅力が沢山あるんだよ → 他人の人生を批判する人がいるが、あなたの人生もその他人の人生とあまり変わらないのでは? → だからこそ批判するのではなく、それぞれの人の良さを見つけていこうよ
というメッセージを込めた歌なのではないだろうか。
昔の私は、自分より下の人間を見つけてプライドを保ってきた。そうでないと自分の生きている価値に理由がつけられないから。
自分は全て正しく、周りが間違っていると思うことで自我を保ってきた。
しかし、そういったメンタルの保ち方では自分の価値を下げてしまっているだけだとこの歌で気づかされた。
他人と比較するのではなく、自分は自分。他人は他人。と分け、それぞれの価値を見いだし、自分の良さを理解してくれる友達を作ることこそ、本当の意味で幸せなのだ。
この歌に合わせて飲みたいお酒は、ブルゴーニュの赤ワインだ。
ブルゴーニュワインは、何も考えずに飲むとボルドーワインよりもまろやかで飲みやすいワインという認識しかもたないが、
ワイン一杯に神経を集中させると、非常に複雑であり繊細な香り・味であることが感じ取れる。
ブルゴーニュ沼という言葉があるくらい、ブルゴーニュの奥深さを完全に理解しきることは難しいお酒だ。
まさに「瞬きもせず」とぴったりで、適当に人と接していてはその人の良さを理解することができない。真剣に人と接し、人の計り知れない繊細さ・複雑さ・奥深さをワインと共に感じて欲しい。
アントナン・ロデ ブルゴーニュ ピノ・ノワール 2018をどうぞ。